パッヘルベルのカノンを探して SP盤の記録

パッヘルベルのカノンのSP盤の記録

はじめに
パッヘルベルのカノンの普通のレコードを探している内に、SP盤という蓄音機用の古いレコード(Shellac,78rpm)は存在しないのかと疑問に思い調べました。

海外のSP盤

TORELLI, GIUSEPPE
 Concerto, op. 6, no. 10 . Reverce: canon, 3 voices, with bass (pachelbel). Berlin Collegium Musicum. con. Hermann Diener. Electrola EH 1231.

Miller, P. (1939). Quarterly Record-List. The Musical Quarterly, 25(3), 395–405.
http://www.jstor.org/stable/738753

The Musical Quarterly Vol. 25、第 3 号 (1939 年 7 月)の404ページ、Philip Miller著のQuarterly Record-Listにある目録より、三声のカノン 、  ベルリン・コレギウム・ムジクム演奏、ヘルマン・ディーナー指揮。レコード番号EH 1231の記載*1。これがカノンSP盤の一番古い記録です。
EH 1231はベルリンの学生(またはアマチュア)楽団、ドイツ人のディーナー指揮なのでドイツ内での録音で問題ないはずですが、売国が米/独のどちらかがわかりませんでした。The Musical Quarterlyは米オックスフォード出版なので恐らく米国での販売記録だと思いますが…確信が持てないです。仮にドイツでの販売記録だとしたら、情報がドイツ語で書かれていない、リストにGermanとの表記が見当たらないのが気になります。
Electrolaはドイツのレコード・レーベルなので、ドイツでの販売で間違いないです。

Reusner, E.
 Suite, no. 1 (arr. Stanley) ; and Canon (Pachelbel). Arthur Fiedler Sinfonietta, con. Fiedler. Victor DM-969

Broder, N. (1944). Quarterly Record-List. The Musical Quarterly, 30(3), 377–378. http://www.jstor.org/stable/739487

The Musical Quarterly Vol. 30、第 3 号 (1944 年 7 月)の378ページ、Broder Nathan著のQuarterly Record-Listにアーサー・フィードラー指揮のSP盤の記録があります。Victor発行、レコード番号DM 969*2。このレコードは40年に米国で録音されました。

日本のSP盤
ありえないと思いつつ、日本での販売がないか調べている中、ふと手に取った「野村コレクション SPレコード目録 昭和63年」の93ページにパッヘルベル作カノンの記載と、Vic, JH 228のレコード番号が記されていました*3。番号を手がかりにビクターの目録を探したところ、販売が確認できました。なお、JHは日本ビクターの赤ラベル・12インチSP盤を指します。

ビクター洋楽レコード目録の昭和15~18年(1944) 18ページ、34ページより、「三聲音のカノン 通奏低音を伴へる」 ディーナー指揮、コレギウム・ムジクム樂団演奏 レコード番号JH 228。このレコードにはジュゼッペ・トレッリの協奏曲も収録されています*4。恐らくは1939年発売のEH 1231と同じ音源です。

ビクターレコードの月報、洋楽新譜の昭和15年(1940) 3月号の3ページに上記とほぼ同様の情報と、10 ページにレコードの紹介文が掲載されていました*5

A面は、三聲音のカノンの形式で書かれた雅趣あるもので中世の藝術美の理想を表現した音楽。

日本ビクター蓄音器 (1940)ビクターレコード洋楽新譜 昭和15年3月号 p. 10

これが、初めて日本でカノンについて触れられた記録だと思います。

 

感想
自分の中ではSP盤の日本での発売はありえないことだと結論づけていて、存在しないという確信を得るために調べ続けていましたが、それだけにビクターの目録から三声のカノンの記述を目にしたときは驚きがありました。

終わりに 情報を残すことについて
多くの文献に残された情報から、期待以上の答えにたどり着きました。思い返せばそう、ディーナー指揮のカノンの情報を目にしなければ調べなかったはずで、野村コレクションのSP盤目録がなければ日本での販売はないものとして今頃は忘れていたはず。結局は最初から最後まで残されたもののおかげで、それを知った以上は自分も残そうと思います。多分また別の誰かが、思いつきと衝動だけで、些細なきっかけから風呂敷を広げてまた畳むのを願って。

参考文献・脚注

*1:Miller, Philip. “Quarterly Record-List.” The Musical Quarterly, vol. 25, no. 3, 1939, pp. 395–405. JSTOR, http://www.jstor.org/stable/738753 . Accessed 05 Oct. 2023. 06:22:05 +00:00

*2:Broder, Nathan. “Quarterly Record-List.” The Musical Quarterly, vol. 30, no. 3, 1944, pp. 377–78. JSTOR, http://www.jstor.org/stable/739487 . Accessed 05 Oct. 2023. 08:12:57 +00:00

*3:ニッパン・ポニー編(1986)野村レコード・コレクション : SPレコード目録 東京都立教育研究所 p. 93

*4:東四郎 編(1944)ビクター洋楽レコード目録 : 昭和十五年-昭和十八年既発売レコード目録 日本音響 p. 18 p. 34

*5:東四郎 編(1940)ビクターレコード洋楽新譜 昭和15年3月号 日本ビクター蓄音器  p. 3 p. 10